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おなもみの おもいは 両思い

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下校途中の海岸通り。自転車を押して歩いていると、急に朋代が立ち止まった。かと思うと、

「あ、くっつきもっつきだ~」

と、黄色い声を挙げた。くっつきもっつき?それは何だ?と、そいつは奇妙な形の実をつけた草だった。

「なんだ。ただの雑草じゃないか」

足を止めて一緒に覗き込んでいた僕を、きっと振り返ると、朋代は、

「んもう。知らないの?」

と、少しぷぅとふくれてみせた。それからいくつかを手に千切ってそっと握りしめて、器用に自転車を押しながら走って行く。「なんだよ」とぼやきながら慌てて後を追うと、

「やーい、やーい」

振り返って自転車を止めた朋代は、ビシビシとくっつきもっつきとやらを僕に向かって投げつけて来た。

「なっ!」

制服のあちこちに、くっつきもっつきがつく。取ろうとすると、小さなマジック・テープが剥がれるような、ピリっという心地よい乾いた音がした。

「とりゃ!」

制服のくっつきもっつきを取り終えた僕は、片手に自転車を押して朋代を追いかけると、何も考えずに投げ返した。

「あーーん」

朋代の制服のボタンの回りに、まるで木の上から毛虫でも落ちて来たかのように、雨霰とくっつきもっつきがつく。

その一つが、長い髪の耳元にくっついてしまった。

「これねぇ・・・髪の毛にからまると取れないんだよぉ~」

半べそになってしまった朋代のそばまで急いで行くと、僕は、自転車越しに、髪の毛に絡まったくっつきもっつきを取ろうとした。

けれども、くっつきもっつきは、とれない。まるで解けない知恵の輪のようだ。

「だから、言ったのに~」

いや、何も言ってないって、とツッコモうかとも思ったけれども、どうも、くっつきもっつきを髪の毛に投げるのは反則だったらしい。

「ま、いいや。ね、耳に髪をかけてれば、ヘアピンの飾りみたいでしょ」

「アーモンドにトゲの生えたような、しょぼいピンだけどな」

「ひっど~、どっちかというと、ウニ系だと思うのに」

「ちっさいアーモンドにトゲが生えたくらいでちょうどいい」

「ひど~~~」

そう拗ねながらも、並んで歩く朋代は楽しそうだった。

「でも、どうしよう」

「ん?」

「ねぇ、髪の短い子って好き?」

「特に、どうって事ない」

「そう」



その翌日、朋代は、長かった髪をばっさりとショートカットにしてきていた。

僕の投げた、くっつきもっつきのせいだな、と、申し訳なく思った。けれども、友人達に囲まれて笑顔で喋っている朋代を見て、初々しいような思いを抱いたり、よく似合っているとも眩しくも感じていた。

しばらくして、こんな噂が立つようになった。

「朋代って、竜也と別れたから、髪、切ったみたい」

今時、失恋して髪を切るっていう人間はどれだけいるんだ?と、可笑しくも思った。朋代は僕と別れてなんかいない。ただ、最近は、お互い、部活の終わる時間が違う事もあって、一緒に帰っていなかった。それか噂に信憑性を与えたらしい。

後の席のヤツが僕の肩をつついて来る。身を乗り出して、

「朋代とナニがあったんだ?」

なんてごにょごにょと訊いて来る。

「別に?」

僕は、これから噂がどう一人歩きするのか面白いなと思う事もあって、特に説明をしなかった。もっとも、くっつきもっつきのせいで…なんて、まどろっこしくて、説明する気にもならなかったけれど。

図書室の図鑑で調べてみると、ただしくは、オナモミというらしい。小さな可愛らしい花をつける。

そう書いてあった。

結局、噂はこう落ちついたらしい。

竜也は朋代を、自分には身に余る存在、もったいないから別れよう、という事になった。逆に、朋代は僕を、自分には身に余る存在、もったいないから別れよう、と思った。

だから二人は、お互いに失恋した、というのだ。

夜、朋代に声をかける。お互い、やりとりは頻繁だけれど、僕が誰と連絡をとっているか、誰も気にしていないようだった。

というか、「竜也には、もう、他の彼女がいるらしい」なんて噂もたった。と同時に、朋代が、何か悩んでいて、頻繁にスマホを覗くようになったとも。

おかしなもんだ。

「このままでいいのか?」

そう、含み笑いの声で訊ねると、

「うん、別にわかれたワケじゃないし、こうやって繋がってるし」

朋代も、笑いながらそう答えた。

くっつきもっつきは、一つの別れ話を生んだ。ショートカットの朋代の元には、告白に訪れる男子も居るらしい。けれど朋代は、「ごめんなさい」というだけだったそうだ。

僕のところにはというと、とんとそういう浮いた話がない。そもそも、無愛想だから仕方ない。朋代の心変わりが心配になるかというと、少しも心配していないと言えば嘘だった。

とはいえ、きっかけを作ったのは僕なので、仕方ないか、などとも考えた。

「あのなぁ…」

「うん」

どこにも行くなよ、そう言いたいのだけど、うまく言えない。それで、しばらく逡巡していると、スマホの向こうで朋代はくすくすと笑っていた。

「大丈夫、私には、たっちゃっんだけだから」

おなもみの片思いは、両思い。

僕たちは、これからもどこまでも一緒だ。

(2011.H23.05.02 改訂再掲)


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