![おじさんとおばさん、どっちが強いと思う?](http://stat.ameba.jp/common_style/img/home_common/home/ameba/allskin/ico_kuchikomi2.gif)
発車のベルが構内に響き渡る。
これを逃したら丸々1コマの授業を遅刻どころか欠席してしまう事になるし、もう欠席は出来ないほどズル休みもしたから、私は大あわてで、黒いパンプスのヒールの音を鳴らしながら列車にかけこみ乗車した。
「あんたねぇ、ちょっと、かけこみ乗車はキケンて、アナウンスあるやろ?あかんで!」
満員電車の扉で背中からぎゅうと人混みを押して列車に乗り込むと、背後から、どや声でいきなりお叱りの言葉が飛んで来た。
「わ、わたしの事だ」と思ったけれど、心の中で、スミマセン、色々理由があるんです、なんて手を合わせる事しか出来なかった。振り向いて、一言とも思ったけれども、身動きの取れないほどの混雑で、私はまるで、聞こえないふりをしている人のようになってしまった。
「サイキンの若いモンは、あかんわぁ」
「なぁ」
「ほんまやわぁ」
スーツ姿の背の高い通勤中のおじさま方に囲まれた私は、小さい背丈をさらに小さくするような気持ちで、「おばちゃんの修学旅行でもあるのかな」と、恰好の話題を提供してしまった事に、首をすくませてしまった。
おばちゃんは強い。殊に、関西のおばちゃんは、どうして?と思うほど強い。
じゃぁ私は関西人じゃないのか?と問われると、まさか大学で西日本に来るとは思っていなかった身の上だった。
のんびりと1両貨車の単線列車を、高校までは通学で使っていたのだけれど、乗っているのはご老体の方がちらほらと、同じ学校の生徒がちらほら。そんな風だったので、初めて都会に出て来た時は、まさにカルチャーショックだった。
自動改札も使った事がなかった。今でこそ、パス・ケースをピっと宛てるだけ、なんて事に慣れたけれど、最初は、知ってるふりをしながらも、内心おろおろしながら、右往左往したものだった。
天上を見上げると、車内には、扇風機しかない。前から3両目の古い貨車に乗ったので暑い。スーツからは、むぅっとする熱気と体温位にあたためられた、おやじ臭がしていた。
おばちゃんたちは、この混雑の中、
「ややわぁ、こんな時間に」
「でも、早く着いた方がええやろ」
「そやなあ」
なんてお喋りを続けている。隣りの高校生のiPodから音漏れしている音楽のシュワシュワした音よりも、おばちゃんの声の方が五月蠅く感じられたほどだ。
やれやれ。誰か窓でも開けてくれないかな。
そう思った時、スーツ姿の男性が、ううっと手を伸ばして、車内扇風機のスイッチをオンにした。ぬるい風がそよそよと当たると前髪がふうわり揺れた。かと思ったら、だんだん勢いづいてきて、やがて涼しい風が頬に感じられるようになった。
と、そこでまた、おばちゃんの大きな声が聞こえた。
「ちょっと!さむいやんかっ!アンタ、みんながみんな、暑いんちゃうんやで!」
背を向けた私の向こう側では、おばちゃんが大きな声で、扇風機のスイッチをオンにした手を探しているのだろう。そんな気配だけを感じながら、ああ、おばちゃんってなんでこうも強いんだろう、なんて、もう感心するばかりだった。
けれども、おばちゃんに口答えする事もなく、黙って扇風機をオンにしたままでいてくれた、どこぞのおじさまに、私はちょっぴり感謝していた。
首筋にうっすら汗をかいてもいたから、それが風に当たってひんやり、心地良かった。
がやがや がやがや
ターミナル駅について、皆が降りて行く。
私が降りるのはもうちょっと先の駅だったので、扉の横に出て、外の空気を吸いながら、降りていく人の列を眺めていた。
あ!これが、さっきの声の主たちかな?ハイキングにでも行くかのようなハットを被って、リュックを背負ったおばちゃん集団が、どやどやと降りて来た。
プシュー
おばちゃんたちは、
「ああ、ウチ、さむかったわ」
「うちは平気やったけどな」
「さいなんやったなぁ」
「むつかしい季節やから、しゃぁないわ」
などと口々に話している。まるで、雀の学校という風情だ。
ターミナル駅を過ぎると座席が空く。私はゆっくり腰掛けると、しみじみ、「おばちゃんって強いなぁ」などと窓を流れてゆく景色をぼぉっと眺めていた。
でも、まてよ。
私も関西に長く住まいする事になったら、そしていい歳になったら、「おばちゃん」になるんだ。あんなに強くなれるかな?「あかんがなっ!」とか叫んでいる自分を想像して、私は、ぶるっと身震いした。
自分の意見をきちんと言える人間にはなりたい。けれども、自己主張が激しすぎて、出る杭になるのもな、と、思わず苦笑してしまった。
これから向かう大学の講義では、教授への挨拶が終わってから、3分間スピーチの文章を書く時間がある。今日のテーマはこれにしよう。
『おばちゃんのつよさと、やさしさ』
厚顔だ!と斬り捨てるにはもったいないほどの思い遣りの気持ちが、おばちゃんにはあるのだと私は思う。だから、おじさま方は、黙って、おばちゃんの好きなように言わせていたんだとも。
これは、おばちゃんとは次元の違う、おじさまの強さだな。
でもやっぱり。
おばちゃんは、強いや。
列車は、カタン、コトンと、気持ちのよいリズムで私を眠りに誘う。
そうだ。テルに訊いてみよう。「ねぇ、私が、関西のおばちゃんみたいに、強くなったらどうする?」テルは、どう言うかな。「ほな、夫婦(めおと)漫才せなあかんなっ!まずは、ツッコミ棒をネットで買って、ツッコミ、100本練習や!」なんて言うんだろうな。
「ツッコミ棒って売ってるんだ!」
真顔ですっとんきょうな声をあげた私は、そこに居合わせた皆に大笑いされた。そんな自分の失態を思い出して、思わず、思い出し笑いでにんまりしてしまった。
そうだな。
授業が終わったら、私も強くなるべく、購買へ、アメチャンを買いに行こう。おばちゃんへのみち。まず第一歩は、ここからだ。
(2011.H22.05.30分 再掲)
ララ サンシャイン♪何歳になっても可憐な方ですね♪
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